2011年12月31日

677.夢心地に・・・

もうこれ以上の愛撫はないくらい、めくるめく熱く濃厚な行為に、お互いの気持ちが盛り上がると、からだを入れ替え、深い交合へと進んでいった。
セシリアのからだは心地よさを感じながら緩慢となり、うつろな目を閉じ、真人の首に巻きついていた腕の力も失いかけている。
それでも、セシリアのからだの中は熱く燃え、強い引き締めに真人のからだは恍惚となっている。
真人が唇を合わせ、そっと吸うと、セシリアの唇が反応し、ゆっくりと舌を差し込んできた。
真人はその舌を吸い、自分の舌を絡めながら、腰を少しずつ揺らし、セシリアの反応を待った。
「あなた・・・」
「ん・・?」
セシリアのかすれるような声に、真人は思わず顔を見詰めた。
セシリアは、唇を合わせたまま、何かを言おうとしている。
控えめな化粧のセシリアの顔は、艶のある美しい肌をしている。
年齢はまだ聞いていない。
最初は40歳を越えているように思ったけど、身近で見る顔は、30歳を少し超えたくらいの年齢に見える。
からだ全体の肌はきめ細かく滑らかで張りがあり、もっと若々しい。
夫を亡くして以来8年以上異性との交遊のなかったセシリアのからだに、再び熱い快感が甦ってきている。
しかも、これまで味わったことのないような快感が、からだ全体に広がり、夢心地になってきた。
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2011年12月30日

676.痺れそうだ

真人の行き届いた濃密な愛撫が繰り返されると、セシリアは汗だくで応じながらも、堪えきれなくなってきた。
セシリアはからだを揺らしながら、呻くような、囁くような、優しげな声を上げている。
真人は、言葉になっていないセシリアの悶え声を聞きながら、
(機内でセシリアが、「ドイツ語での恋の語らい方を教えてあげるわね」といった言葉を・・・)
思い出した。
でも、セシリアの声は、そのような言葉にはなっていない。
この場で恋の語らいなどするはずがないから、やはりからだに感じる快感に思わず声を出したに過ぎないのだろう。
セシリアは、痺れそうになりながらからだを起こすと、真人の下半身へとからだを移し、股間へ顔をうずめて口一杯に含んだ。
セシリアは、早くこうしたかったのだ。
小さな子が飴をしゃぶるように、口の中で舌を転がしている。
真人もセシリアが望むような行為で腰を抱き寄せ、優しく応えた。
セシリアの際立って白く滑らかなお尻の肌が、目の前でゆっくりと揺れている。
そして甘い香りが漂っている。
セシリアは、真人と交わす行為に思いを馳せながら、ほのかに漂う香りを、前以て施しておいたのだろうか。
甘い香りと蜜が絡み合って、真人の舌はしびれそうになって来た。
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2011年12月29日

675.悦びの声が漏れる

東京からチューリッヒまで、数時間親しく会話を弾ませた真人とセシリアであるが、それからお互いが過ごしたわずかな時間が、早く会いたい気持ちを更に高めていたといえるだろう。
セシリアは、スイスの首都ベルンで友人と過ごし、真人はウィーンで仕事を順調にこなしてきた。
この間、セシリアが真人と別れたあと過ごした時間は、ほとんど真人への思いで占められていた。
夫を亡くした悲しみや寂しさを乗り越えて、平常心を取り戻したとはいえ、成熟したからだが求めていたものは、高まる一方であった。
ガールスカウトの仕事の打ち込み、若い人を育てることに充実感を抱いていても、独りの寂しさは募るばかりであったのだ。
真人との出会いは、心の中にぽっかりと空いていた隙間を埋めるに十分な、中身の濃い価値のあるものであった。
何気ない会話の中から、セシリアは真人の人柄を知り、若さに溢れた魅力に惹きこまれていた。
だから、迷うことなく真人に誘いをかけてしまったのである。
「若い人と熱烈な恋をしたい」その気持ちは、セシリアの胸の中でずっと秘めてきたものなのだ。
その思いを叶えてくれる人が目の前に現れたと感じたとき、セシリアは迷わず真人を誘ったのである。
今、その熱い思いが実現しようとしている。
セシリアの胸は弾んでいる。
 
シャワーを浴びてベッドへ入ると、セシリアは真人の上になって抱きしめた。
真人は、セシリアの顔を引き寄せ、柔らかく唇をあわせると、甘い舌が差し込まれてきた
セシリアの形のいい大きな乳房が、真人の胸に強く押し付けられ、熱く燃えている。
真人はセシリアの大きな腰を抱きしめた。
しばらくして真人は、からだを揺らし始めたセシリアの思いを感じ、入れ替わって上になった。
そして、セシリアの乳房を口に含み思い切り吸い込んだ。
セシリアの悦ぶ声が、震えるように、小さく口から漏れた。
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2011年12月28日

674.心を通わせる

窓辺にたたずむ真人に近寄ると、セシリアはからだを寄せて抱きつき唇を合わせてきた。
セシリアの熱く燃えた舌が、真人の唇を嘗め回し絡めてきた。
真人もセシリアのからだを強く抱きしめた。
うっとりと目を閉じていたセシリアが、目を開けると青い瞳が潤み輝いている。
その魅力あふれる瞳は、恋の始まりを告げているかのように優しさに満ち溢れている。
真人は、セシリアの甘く柔らかな舌を、唇を、繰り返し吸った。
セシリアは、真人の手を握り締め、寝室へと誘い、大きなベッドへ倒れこんだ。
真人はセシリアのからだの上の覆いかぶさるようにからだを預け、抱きしめて唇を合わせ舌を絡めあった。
「あなたは、私にとってとても大切な存在になっているの・・・はじめて出会った人には思えないのよ」
唇を離しながら、セシリアは瞳を潤ませた。
「わたしも、あなたとの出会いが偶然のようには思えないのです。合うべくして会った感じがしています」
「うれしいわ。あなたって本当に優しいのね」
「あなたを大切にしたい気持ちが、わたしの心を優しく包み込んでしまったからです」
「これからは、二人だけの時間を、密度の濃いものにしていきましょうね」
「心を通わせて暖かな時間を持ちましょう」
「気持ちよくしてくださいね」
「あなたが、この上なく幸せな気持ちになれるようにしてあげます」
「本当に・・・うれしいわ・・・」
セシリアは、うっとりとして目を閉じ、唇を合わせると、真人の首を強く抱きしめた。
合わさって熱くなってきたからだは、着衣を通してお互いの肌を意識し始めている。
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2011年12月27日

673.セシリアの住まい

シュナイターの家族と別れてナンシーに空港まで見送られ、真人はインスブルック行きの飛行機に搭乗した。
機内は満席である。
席に着くと真人は、シュナイター一家と出会って話したことに思いを馳せた。
へディが熱意を込めて、事業計画話しをする表情が鮮やかに浮かんでくる。
会社設立に関する情熱の強さは、一家でも際立っていて、推進の中心的存在であった。
それだけではない。真人の会社が推進する事業の支援にも積極的に関わる姿勢が見て取れて、真人はその気配りに感謝した。
ドナウ川のクルーズ船にカメラを設置することや、大きな建物にカメラを設置する具体的な提案もしてくれた。
一家と話し終えた後、真人は予定していたKEBEC社へ、シュナイター家の家族を伴って訪問し、紹介して今後の進め方を相談した。
この訪問では、先々KEBEC社とシュナイター家の双方にとって、大きなメリットがもたらされる事になるのである。

機は、オーストリアの美しい景観を眼下に見渡せる上空を飛び、約1時間程度でインスブルック空港へ到着した。
空港からは、アルプスの山並みが間近に迫っている。
インスブルック国際航空は西オーストリア最大の空港である。
年間100万人近くの利用者がるようだ。
空港を出ると、真人が東京からチューリッヒへ向かう機内で出会い、再会を約束していたセシリアが待っていた。
「よく来てくださったわね。ウィーンからはあっという間についてしまったでしょう」
「案外近いので驚きました」
「私の家は、ここからも見えるところにあるのよ」
「そうなんですか」
真人は、セシリアの家の位置を聞きながら、着陸する機内から眺めた家並みを思い起こした。
空港とアルプスの間に広がるなだらかな丘陵地帯に住宅が見えた。
空港の滑走路間近まで住宅が迫っていた。
今まで見たことのない光景に、真人は意外性を感じていたのである。
だから、セシリアの住まいがこの近くだと聞かされて、驚いたのだ。
セシリアは、車で真人を自宅へと案内した。
高台に建つ瀟洒なマンションである。
家に入るとセシリアは、窓を大きく開いて前方に広がる景観を示した。
成る程、インスブルック空港に近い。
見下ろす真下に滑走路が伸びている。
「二重窓になっているから、締め切っていると飛行機の騒音はまったく聞こえないのよ」
セシリアは、そう言って心配そうに空港を眺めている真人に説明をした。
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2011年12月26日

672.家族共通の思い

ナンシーの母へディは、家族で観光案内会社を設立する計画を話した。
「2年後に実現させる予定で、準備を進めているのよ」
「それで、皆さん観光関係の会社に勤務されているのですね」
シュナイター一家が、単に観光関係の会社に勤めているだけではなく、オーストリア、スイス、フランスにその職場を得ていることに注目しているのだ。
「世界で最も観光客の多い国に、ポイントを絞り込んで営業を進めたいと考えているの」
「それは素晴らしい計画ですね」
「ナンシーから、あなたの会社の話を聞いて、早速サイトを拝見していると、一度会って話をしたくなったのよ」
「大変光栄です。わたしもナンシーさんからその話を聞いて、ぜひともご家族の皆さんとお会いして話をしたいと思いました」
「そう、こうしてあなたとお会いできてとてもうれしいわ」
へディは、それから会社設立の内容を詳しく話し始めた。
「問題は、システム関係の知識が不十分なので、佐伯さんのお力添えをいただきたいのです」
「分かりました。是非皆さんの夢がかなえられるよう力になりますから、遠慮なく何でもおっしゃってください」
「ありがとうございます」
へディは、バッグから計画書のファイルを取り出して真人に手渡した。
ざっと目を通した真人は、その充実した内容に感心した。
そして、先ずは会社のシステム作りから始める必要性のあることを伝えた。
「あなたたちが会社を設立して、短期間で現在のような充実した会社に育て上げたその力量に注目しているのよ」
へディは、そう言って真人の会社の急激な成長振りに目を瞠っている気持ちを打ち明けた。
「目的は異なっても、基本的な部分では共通点がたくさんありますから、これから何度かお会いして、具体的な内容を作り上げていきましょう」
「そうしていただけると大変ありがたいです」
真人の隣に座って話を進めるへディが、真人の手を握り締めて微笑んだ。
「パリの私が勤務している事務所へも、是非来ていただきたいわ」
パリの観光会社に勤務するメアリーが、真人と話をしたいと誘ってきた。
「それはとてもいいことだわ」
へディも、メアリーの呼びかけに賛同してくれた。
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2011年12月23日

671.ナンシーの家族と出会う

翌日真人は、ナンシーの家族が待つホテルのレストランへ向かった。
レストランの入口でナンシーと出会った風にして中へ入ると、家族はすでに席について待っていた。
挨拶を交わして真人が紹介されると直ぐに、母のへディが遠路はるばるやってきた真人の労をねぎらう言葉をかけてくれた。
真人は家族の全員と名刺を交換し、席に着くとへディが、料理の希望を聞いてきた。
真人は、オーストリアの家庭料理の一つを頼んだ。
食事をしながら、出会いの喜びを分かち合おうというのが、ここでのセッティングであったのだ。
父のヘルマン・シュナイターはじめ、ナンシーの家族は全員からだが大きい。

真人は、会社の設立から今日までの進捗状況を詳しく説明した。
「少人数で世界中をくまなく回りきるには、大変な努力が要るでしょう」
ヘルマンは、真人たちの開拓精神を称えながらも、忍耐力の要る事業に感心しきりである。
「ウエブカメラの設置は、効率の悪いやり方に思われがちですが、KEBEC社の強力なバックアップがありますので、かなり速い展開で目標をクリアできると考えたいます」
真人は、既に目標の60%をクリアしていて、向こう1年間で100%に持っていくのだと話した。
「それは素晴らしいですね。保守管理にも万全を尽くしているのでしょうか」
「KEBEC社の保守事業企業と連携して対処していますので、ご安心いただけます」
真人は、今後の展開として、飛行船のほかに宇宙衛星の打ち上げが間近に迫っていることを話し、動画配信の精度が高まることを強調した。
「飛行船からの映像と列車などからの映像を瞬時に切り替えて、観光地の景観を観ることができますから、素晴らしいシステムですね」
「列車からの映像配信に関しては、今回シュナイターさんに是非ともお願いしたいことがありまして、お聞きいただきたいのです」
そう言うと、シュナイターさんは、遠慮なくおっしゃってくださいと、好意的な返事が返ってきた。
「世界遺産に登録されている、ゼメリング鉄道の車両にウェブカメラを設置したいのです。すでに交渉をしているのですが、まだ実現に至っていないので、シュナイターさんのお力添えを是非ともお願いしたいのです」
「そうですか、ご希望の趣旨は良く分かりました、関係先に親しい友人がいますので、早速連絡を取って早急に実現できるよう、努力しましょう」
真人は、シュナイターさんの力強い言葉に感激した。
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2011年12月22日

670.意識が遠のく

真人とナンシーは、風呂から上がると慌しくベッドへ入り、抱き合った。
ナンシーの色白の滑らかな肌は柔らで温かい。
その肌に吸いつけられるように、真人のからだを受け入れたナンシーは、真人の行き届いた愛撫に、早くも悩ましい声を出し始めている。
ナンシーのからだを這い回る真人の唇や舌が、お互いの感情を高めていった。
ナンシーのからだの動きは、初めて交わした愛の交わりのときよりも、濃艶で大胆になっている。
その悩ましいからだの動きに刺激された真人は、より濃密に秘所を強く愛撫した。
ナンシーは、長く続く真人の濃厚な愛撫に耐え切れず、半身を起こして高い声を上げた。

やがて深い交合にいたると、ナンシーはからだをくねらせながら、悶え続け、声を張り上げながら、真人のからだを強く抱きしめた。
真人もナンシーの強い引き締めに体中に痺れを感じ始めた。
ナンシーは、真人の顔を引き寄せると唇を合わせ、舌を絡めてきた。
舌を絡め吸い合っていると、二人はお互いに恍惚となって、深い夢の世界へと沈み込んでいくような錯覚に陥っていった。
初めて抱き合ったとき、真人はナンシーに「あなたは、エリザベートのようだ」と言ったことがある。
今それを思い返しながら、ナンシーの顔を見つめると、その美しさは、まさしくエリザベートそのものだ。
大きなからだとふくよかな頬は愛らしく、魅力的だ。
真人は、今回ナンシーの家族と会う前に、こうして二人だけで過ごす時間を設けてくれたことを、心から感謝している。
ナンシーの暖かな気配りがうれしくて、真人は激しくからだを揺れ動かした。
真人の動きにナンシーは耐え切れず、次第に意識が遠のいていった。
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2011年12月21日

669.ナンシーと再会

ウィーンのホテルでナンシーが待っていた。
「直行便で、ここまでいらっしゃったの?」
「そうだよ」
真人は、そう言ってナンシーを安心させた。
チューリッヒに立ち寄ったことは伏せておいた。
奥山美樹に対するナンシーのライバル意識は、真人の想像を超えている。
KEBEC社とナンシーが勤務する観光鉄道会社は、親密な取引関係が築かれている。
初めてナンシーの会社を、奥山美樹と真人が訪問したとき、まだ二人の間は深い関係になっていなかったけれど、女の鋭い直感が真人と美樹の胸のうちを早くも見抜いていたのだ。
だから、チューリッヒへ立ち寄ったことが知れれば、美樹と真人のことに思いを馳せることは言うまでもない。
チューリッヒ経由できたとなれば、真人を責め立てないまでも、不快感を表すことは目に見えている。
折角ナンシーの家族と将来のビジネス話を進めて行こうと、夢が高まっている気持ちを、あえて殺ぐような行為は避けなければならない。
「明日は、ご家族のご都合は、予定通りで大丈夫なんだね」
「みなあなたと会うのを楽しみにしているわ」
「うれしいです。わたしも皆さんにお会いできる日を楽しみにしていました」
ナンシーの家族は、将来観光旅行会社を立ち上げて経営していく計画があるのだ。
だから、真人の会社に興味を示し、是非一度会って話をしたいと頼まれていたのである。
ナンシーの家族の中で、もっとも熱心なのが母親だと聞いている。
母親は、ウィーンで観光会社に勤務し、将来の独立に備えて会社設立に必要な資格を取得して、着々と準備を進めている。

今回ナンシーの家族と会うことは、世界遺産に登録されているゼメリング鉄道に一つの焦点を合わせているのである。
ウィーンからグラーツまでの区間は、世界有数の景勝地である。
ここを運行するゼメリング鉄道に設置するカメラで、この景観を発信していきたいと考えているのだ。
それには、ナンシーの父が勤務する観光局に話をつける必要があるのだ。
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2011年12月20日

668.思いがけない厚意

美樹と別れた真人は、チューリッヒ空港からオーストリアのウィーン行きの飛行機に搭乗した。
窓側の隣の席には中年の女性がすでに座っている。
真人は、笑顔を向けながら、
「ご旅行ですか」と訊ねた。
「孫娘の顔を見に行くのよ」
若く見えたけど、案外年齢が高いのだと気付いた。
「孫娘は、8歳になるの、お茶目で話し好きなのよ。私が行くと、お友達のことや学校のことなど、話すことが沢山あって、喋り通しなのよ」
「あなたが来るのを楽しみに待っているのですね」
孫娘は、エリザベスという名であるといった。
「エリザベスと話をするのが楽しみで、生きがいになっているのよ」
まだ幼い孫娘の姿を思い描きながら、話しをする女性の笑顔を見ていると、真人は仕事のことを忘れて、温かな家庭の幸せを感じる。
真人は名刺を渡して、手短に会社のことを話した。
「そう、素晴らしいわ、まだお若いのに感心ね」
そう言いながら、女性はスイスベルン育ちのイザベラと名乗った。
「ベルンは、スイスの首都であると同時に、旧市街の家並みは目を見張る美しさですね」
「今回そこへ行かれたのですか」
「前回の出張時に行く機会があって、旧市街を見渡せる大きな橋の上から眺めたことがあるのです。ゆったりと流れる川のほとりに佇む美しい家並みに目を奪われて、離れがたい気持ちになりました」
「実は、わたくしはそこの生まれ育ちなのよ」
イザベラは、目を輝かした。
「そうですか、そうしますと今でもご両親が住まわれているのですか」
「母と姉夫婦が住んでいるのよ」
時々は、そこを訪れて、母の元気な顔を見るのが楽しみなのだとイザベラは楽しそうに話した。
「大きな橋の右手が高台になっているのを覚えていますか」
「木々が鬱蒼としているところですね、記憶に残っています」
「そこの一番上のところに家があるのよ」
「町全体が見渡せるところですね」
「そうなのよ、とても好いところでしょう」
「旧市街の美しい家並みが、一望できる所ですね」
「そうなのよ」
「良い所に、お住まいだったのですね」
「大学を卒業するまでいたのよ」
卒業後チューリッヒで就職をしてから、そこに住み続け、結婚したのは26歳のときだと話してくれた。
「ご主人は現在も現役で仕事に就いておられるのですか」
「3年前に亡くなりまして、わたくし独りなのよ」
「それで、お独りで時々お孫さんの顔を見に行かれるのですか」
「それが唯一の楽しみなのよ」
イザベラは、孫娘に会う喜びを胸に抱きながらも、独りの寂しさを噛み締めているような表情になった。
真人は話題を変えて、ベルンの旧市街が展望できるところへの、ウェブカメラ設置に努めているのだと話した。
「あら、それでしたら、あなたのご希望を叶えてあげられるかもしれないわ」
イザベラはそう言い、生まれ育った家から美しい町並みが展望できるところへ、カメラを設置できるかもしれないと、提案してきた。
「本当ですか、それが出来たなら、最高にうれしいです。世界中にそこからの景観を紹介したいです」
真人は、思いがけないイザベラの厚意に、胸を弾ませた。
posted by シーサン at 16:31| Comment(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする