仲間数人で乗り込んできた若い女性のひとりが、真人の隣の席を指して「空いているか」と聞いてきたので「空いていますから、どうぞお座り下さい」と言うと、にこやかな笑顔を向けてきた。
どこから来たのか聞いてみると、アメリカのシカゴから来たシカゴ大学の学生だと言う。
「シカゴ大学と言うと、今の大統領が教員を勤めた学校ではないのか?」
「そうです。良くご存知ですね」
それで、すっかり打ち解けて、話しやすくなった。
真人は、アメリカの学生は、何年生のときから就職活動をするのか聞いてみると、もう既に活動中だと言う。
「でも、景気後退で何処も採用人数を抑えているから、就職するのはなかなか厳しい状況です」
「どのような分野の企業への就職を目指しているのですか?」
「銀行・証券・保険の金融分野を希望しているのですが、もう絶望的です」
「シカゴは、メーカーが多いのではないですか」
「アメリカ全体の経済不振による影響で、製造業が衰退した時期がありますが、現在シカゴ近郊では半導体や電子機器、輸送機械などの産業が地域経済を支えています。でも、都心部は全米における商業、金融、流通の中心地として、その地位を保っています」
「専門は、何ですか」
「経営です。・・・ところで、あなたは会社員ですか、それとも学生ですか」
女性は、真人に質問をしてきた。
「学生ですが、動画配信会社を立ち上げて、世界展開を図っているところです。仲間が夫々の地域を担当して、わたしはヨーロッパ全域を回っています」
そう言って、真人は名刺を渡した。
「一度、わたしの会社のサイトを見てください。そうしたら、理解していただけると思います」
それから、真人は会社の内容を概略説明した。
「モバイルホンでも見られますか?」
「見られますよ、ご覧になってみてください」
そう言いながら、早速手にしたモバイルホンでサイトを見ると、その女性は、大きな声を上げて仲間を呼んだ。
仲間が数人集まって女性を囲み、動画に見入っている。
「好きな音楽も聴けますよ」
真人が声をかけると、女性の好きな曲をダウンロードさせ聞き入った。
集まった仲間がみな、口々に「素晴らしい」と言って、感心している。
隣の席の女性が、皆に真人を紹介し、会社のことを話した。
真人は、全員に名刺を渡した。
仲間の一人は、「あなたの会社は、アメリカで社員を採用する予定がありますか?」と聞いてきた。
「あります。応募をご希望でしたら、お帰りになって、まずわたしの会社の概要をご覧になってください。そして、わたし宛にメールを下さい」
皆、真人の名刺を見詰めながら、納得顔で夫々の席に戻っていった。
それから、隣席の女性と会話が弾んだ。
パトリシアというその女性は、インディアナ州北部のロチェスターに家があり、家は代々農場を営んでいるのだと言う。
でも、シカゴ市近郊に位置するため大都市圏の一部になっているから、最も人口が密集しているところだと言う。

