真人は、肉と野菜類のバランスのとれた料理を食べたいと、ナンシーに応えると、ウェイターを呼んでナンシーの食べたいものと一緒にオーダーしてくれた。
湿度が低いとはいえ、夏の暑さは格別である。
真人がビールを飲みたいと言うと、ナンシーも真人の要望を待っていたかのように、ビールもオーダーした。
ナンシーは、奥山美樹と真人が訪問して決った仕事の進捗状況を話した後、今日会って話しをしたかったことについて、美しい声で語り出した。
「わたしの家族は、みな観光関係の仕事に就いているのよ。父はウィーンの観光局に勤務する管理職ですし、母も旅行会社の管理職に就いているの。そしてわたしが鉄道会社の観光部に所属しているでしょう。妹のメアリーはフランスの旅行会社に勤務しているのよ」
「皆さん、国際社会で活躍されているのですね」
「実はね、将来は家族で観光関係の会社を立ち上げる予定なの。そのための準備をしているところに、サエキさんとお会いして、観光関係の動画配信の素晴らしい会社を知ることが出来たから、とても幸運だと思ったの。あなたの会社と提携してお仕事が出来たらと、考えたのよ」
「そうでしたか、それでは、ナンシーさんのご家族が進めれれている計画を、是非ともお聞かせ下さい」
真人がそう応えると、ナンシーは、喜びを隠しきれずに、表情豊かなジェスチュアーで胸に手を当てながら、満面の笑顔を向けてきた。
真人にとって、ナンシーの父がウィーンの観光局にいることは、これからオーストリアですすめる鉄道会社との交渉を有利に進めることができる。
K社の山形と進めてきた鉄道会社の交渉は順中であるが、まだ一部であって、今後もその他の会社との交渉が残されている。
電鉄会社の多くが国鉄であることから、観光局の後ろ盾があれば、今までよりも素早く進展させることができるからありがたい。
ナンシーの話を聞いていると、なるほど真人の会社との連携が、より大きな効果を発揮することが出そうだ。
真人は、ナンシーから一通り話しを聞いてから、
「お話の内容は、良く分かりました。この先、出来るだけ早い時期にあなたのご両親とお会いして、具体的な行動に移したいです」
と応えた。
「良かったわ。早い方がいいわね。来月のあなたのご予定をお聞かせ下さい。わたしたち、サエキさんの予定にできるだけ合わせるように、家族で相談しますから、・・・」
真人は、手帳を出して来月の予定を確認しながら、ナンシーに予定日を知らせた。
「それでは、9月の第二土曜日と言うことですね。早速家族と相談してご連絡します。遠方から来ていただくので、恐縮です。学校の授業が始まるのでお忙しいでしょうが、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。あなたからの提案、とても有難く、うれしいです。これから長いお付き合いになりますから、お互いに遠慮なく何でも率直に話し合って行きましょう」
「そうおっしゃっていただくと、わたしもとてもうれしいです。・・・これから長く密度の濃いお付き合いをしたいです」
ナンシーは、口を吐いて出た言葉の恥じらいを打ち消すかのようにビールをぐいと飲んだ。
真人も、ナンシーの「密度の濃いお付き合い」の意味を深読みした照れくささをビールで飲み込むと、爽やかな気持ちになった。
真人とナンシーは、目と目で頷き会ってお互いの気持ちを確かめた。

