春子は、次第に意識が遠退いていくのを感じながら、真人のからだを擦るようにゆっくりと手を滑らせた。
背中から腰、お尻、そして太股へと掌を這わせると、真人の鍛えられた逞しいからだを感じ、この上ない幸せな気持ちになって行った。
真人が何かを話しかけてきたような気がするけれど、夢心地でその声が薄れていく。
春子は必死になって真人を追った。追っても、追っても、なかなか追いつかない。
声をかけようとしても声が出ない。
足はもつれ、思うように前へ進めないのだ。
真人がトラムに乗ろうとしている。
このままでは真人においていかれる。
電車が走り出した。もう駄目だ。「ああ、・・・真人」春子は泣き出しそうになった。
それでも春子は、両手を挙げながら必死に電車を追いかける。
「まって、・・・」
春子は大声を上げた。
街を行く人達が、何事が起こったかと、春子の姿を注目して眺めている。
暫く追うと、電車が止まった。春子は追いつき、開いたドアから中に飛び乗った。
(ああ、良かった、やっと真人に会える)
そう思って、車内を見回しても真人の姿はない。
真人はどこへ行ってしまったのだ。
春子は電車を間違えたかと思い、急いで飛び降りた。
周囲を見渡しても、そこには人の姿が消えて誰もいない。
電車がまた走り出した。
走り出した電車の窓に真人の顔が覗いている。
「ああ、・・・」
春子は、また走り出した。
すると電車は急に左に曲がって見えなくなってしまった。
自由の利かなくなった鈍い足取りで交差点まで辿り着くと、電車の姿はない。
春子は、呆然と立ち尽くした。暫くすると、涙が止めどもなく流れ落ちてきた。
(もう永久に、真人とは会えないのだろうか。)
そう思ったとき、目が覚めた。
(ああ、夢でよかった)
そう思って気がつくと、春子は真人にまだ抱かれていて、真人の口で口を塞がれていたのだ。
それで苦しくて、夢を見たことに気付いた。
2009年10月27日
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